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メニュー別「時間当たり貢献利益」— 経営改善は、この一枚の表から始まる

読了の目安:約10分 / 想定読者:年商1〜3億円・単院の美容クリニックの院長・経営者

目次

この記事について

「一番売れているメニュー」と「一番儲かっているメニュー」を、同じものだと思っていないでしょうか。売上構成比の円グラフだけを見て「脱毛が主力だから枠を増やそう」「単価の低い物販はやめよう」と判断すると、しばしば利益と逆方向にアクセルを踏むことになります。

売上の大きさは「価格×件数」で決まりますが、手元に残る利益は「一件ごとにいくら残るか(貢献利益)」と「その一件に、あなたの一番希少な資源=診療時間をどれだけ使うか」で決まります。この記事では、全メニューを「時間当たり貢献利益」という一つのものさしで一枚の表に並べ、値上げ・廃止・枠配分の判断材料をつくる手順を、様式ごと開示します。

この施策で何が変わるか

売上構成比で経営を見ているうちは、判断の軸が「大きいメニューを伸ばす/小さいメニューを削る」に固定されます。ところが、メニューごとに「価格から変動費を引いた貢献利益」を出し、それを「そのメニューが医師の時間を何分拘束するか」で割ってみると、順位が入れ替わります。

  • 売上1位のメニューが、時間当たりで見ると最下位、ということが普通に起こります。
  • 単価は低いのに、短時間で終わるメニューが、時間当たりでは主力を上回ることがあります。
  • 「なんとなく続けている」メニューが、実は院長の時間を最も食っている犯人だった、と数字で見えます。

この瞬間に、打ち手の選択肢が変わります。「売上が大きいから守る」ではなく、「時間当たりで劣るなら、値上げするのか、時間の使い方を変えるのか、縮小するのか」という問いに切り替わる。ここで重要なのは、表をつくれば利益が自動的に増える、という話ではないことです。増えるのは利益そのものではなく、判断の材料です。同じ枠、同じ院長の時間を、どのメニューに割り当てるか——その意思決定の解像度が上がる、というのがこの施策の本質です。

やり方の完全開示

ここがこの記事の主役です。順番に手を動かせば、専門家でなくても「たたき台」までは到達できるように、判断基準まで開示します。

手順(7ステップ)

① 全メニューの棚卸し 表に載せる対象を洗い出します。単発施術だけでなく、コース・セット・物販もすべて行にします。「メニュー表に載っているもの」ではなく「実際に会計が立っているもの」を、直近3か月のレジデータから拾うのが確実です。休眠メニューや院長の頭の中にしかない裏メニューも、ここで表に上げます。

② 変動費の割り付け 各メニュー一件あたりの変動費を積み上げます。ここで最も迷うのが「何を変動費に含め、何を含めないか」です。判断基準は一つ、「その施術を一件やめたら消える費用か」です。

  • 含める(一件増えるごとに追加でかかる):薬剤・注入剤・糸などの材料費、ディスポの消耗品、施術者への技術歩合(歩合部分のみ)、クレジットカード・電子マネーの決済手数料。
  • 含めない(件数と無関係に発生する固定費):院長や常勤スタッフの固定給、家賃、機器のリース料・減価償却、広告費、水道光熱費、システム利用料。

つまり、人件費の固定給部分や機器代は変動費に入れません。ここを混ぜると「時間当たり」の意味がぶれます。固定費は表の外で全体として回収するもの、と割り切ります。

③ 施術時間の実測 各メニューが消費する時間を測ります。このとき、二種類の時間を分けて記録するのがコツです。

  • 医師拘束時間:院長がその施術に張り付く時間(カウンセリング・施術・アフター説明の合計)。
  • 部屋占有時間:診療室やベッドがふさがる時間(前後の準備・クールダウンを含む)。

記憶や「だいたい30分」ではなく、ストップウォッチで数件ずつ実測します。カルテの予約枠や入退室のタイムスタンプが使えれば、それを使います。実測は地味ですが、この表の精度はここで決まります。

④ 貢献利益を出す メニューごとに「価格 − 変動費 = 貢献利益」を計算します。これは一件を提供するたびに、固定費の回収と利益に回せる金額です。

⑤ 時間当たり貢献利益を出す 「貢献利益 ÷ 施術時間」で、一分あたりの貢献利益を出します。分母には、原則としてボトルネック資源の時間=通常は医師拘束時間を使います。理由はこうです。年商1〜3億円の単院で、増やそうにも増やせない一番希少な資源は、院長という医師の時間だからです。ベッドは足せても、院長は一人しかいません。だから「一番詰まっている資源を、一分あたりどれだけ稼ぐか」で並べると、経営判断に効く順位になります。例外として、ベッド数が制約なら部屋占有時間を、施術を看護師に委譲しているメニューなら看護師の拘束時間を分母に置き換えます。

⑥ 4象限マトリクスで分類 「縦軸=時間当たり貢献利益(効率)」「横軸=月間件数(ボリューム)」の4象限に、全メニューをプロットします。これで各メニューの立ち位置が一目で分かります。

⑦ 象限ごとの打ち手を当てる

  • 高効率×高件数(右上):主力。枠を優先配分する候補。予約が埋まるなら、ここに院長の時間を厚く割り当てます。
  • 高効率×低件数(左上):認知・カウンセリングを強化して件数を増やす候補。稼ぐ力はあるのに知られていない、集めきれていない状態です。
  • 低効率×高件数(右下):値上げ、あるいは時間の使い方を変える候補。看護師への委譲や工程短縮でボトルネックを空けられないかを検討します。
  • 低効率×低件数(左下):廃止・縮小、またはセット化の候補。単独では負担ばかりのメニューを、主力への入口として束ねられないかを考えます。

記入式テンプレート(モデルケース・例)

以下は年商約2億円の単院を想定したモデルケース(例)で、数値はすべて説明のための架空値です(特定の院の実績ではありません)。自院の数字に置き換えて使ってください。

メニュー 価格 変動費 貢献利益 医師拘束時間 時間当たり貢献利益 月間件数 月間売上 月間貢献利益
全身脱毛(1回) 30,000 6,000 24,000 40分 600円/分 130 3,900,000 3,120,000
ヒアルロン酸注入 90,000 30,000 60,000 20分 3,000円/分 38 3,420,000 2,280,000
ボトックス注射 45,000 13,000 32,000 10分 3,200円/分 45 2,025,000 1,440,000
二重埋没法 250,000 25,000 225,000 75分 3,000円/分 8 2,000,000 1,800,000
医療ハイフ 60,000 8,000 52,000 40分 1,300円/分 25 1,500,000 1,300,000
スキンケア物販 8,000 5,000 3,000 3分 1,000円/分 150 1,200,000 450,000

この表から何が読み取れるか。月間売上の1位は全身脱毛(390万円)です。ところが時間当たり貢献利益で見ると、全身脱毛は600円/分で最下位です。しかも全身脱毛は月に約5,200分(=約87時間)の医師拘束時間を消費しており、これは表全体の医師時間の6割を占めます。時間の6割を使って、貢献利益は全体の3割しか生んでいない、という構図です。

一方、ヒアルロン酸注入とボトックス注射は、時間当たり3,000円/分前後と高効率で、かつ件数も出ています(右上の主力ゾーン)。二重埋没法は時間当たりでは主力級なのに月8件と少なく(左上)、認知や相談導線を強めれば伸びしろがある候補、と読めます。

売上構成比の円グラフだけを見ていたら、「主力の脱毛にもっと枠を」と判断したかもしれません。しかしこの表は、「脱毛の一件あたりの時間対効果をどう改善するか(値上げか、委譲か)」「空いた院長の時間を、時間当たりで勝る注入系や埋没法にどう振り向けるか」という、まったく別の問いを差し出します。判断が変わるのは、事実が変わるからではなく、事実の並べ方が変わるからです。

KPI定義

項目 内容
指標名 時間当たり貢献利益(円/分)
定義式 (メニュー価格 − メニュー変動費)÷ ボトルネック資源の拘束時間(分)。通常は医師拘束時間を分母に用いる
データ源 価格・件数=レジ/会計データ、変動費=発注・仕入データ+歩合規程、施術時間=カルテのタイムスタンプまたは実測
更新頻度 四半期ごと(価格改定・仕入単価の変動・件数の季節変動を反映)

指標の定義を先に固めておくことが肝心です。「変動費に何を入れるか」「時間をどう測るか」が人によってぶれると、四半期ごとの比較が成り立たなくなり、表そのものが信用を失います。

工数の目安

正直に書きます。この表は、思ったより初回に手間がかかります。

  • 初期構築:20〜30時間。ボトルネックは計算ではなくデータ収集です。仕入単価の名寄せ、歩合規程の確認、そして何より施術時間の実測に時間がかかります。
  • 四半期更新:2〜3時間。一度型ができれば、更新は最新の単価と件数を洗い替えるだけで済みます。

初回の20〜30時間をどう捻出するかが、この施策の最大の関門です(後述します)。

つまずきポイント

  1. 歩合の扱い:施術者への報酬のうち、件数に連動する歩合部分だけを変動費に入れます。固定給は含めません。ここを混同すると、歩合の高いメニューほど不当に不利に見えてしまいます。
  2. セットメニューの按分:複数施術のパックやコースは、各施術の単品価格の比率で、パック価格と施術時間を按分してから一件ずつに割り戻します。按分ルールを一度決めて、毎回同じルールで通すことが大切です。
  3. 仕入単価が動く薬剤・注入剤:注入剤などは為替やロットで単価が動きます。期中は据え置き、四半期ごとに最新単価で洗い替える、と運用を固定します。毎日追いかけると更新が止まります。
  4. 時間をほとんど使わないメニュー(物販など):物販は医師時間をほぼ使わないため、時間当たりの数値が実態より大きく見えることがあります。物販のような「時間非依存」のメニューは、時間当たりではなく貢献利益の絶対額とスタッフの手間で判断する、と切り分けます。

院長単独の壁

ここまで読んで、「やり方は分かった。あとはやるだけだ」と感じたなら、それは正しい感想です。この施策は、手順としては完全に再現可能です。にもかかわらず、多くの院で表が完成しないか、一度つくって更新が止まります。その理由は、能力ではなく構造にあります。

一つは時間です。初期構築の20〜30時間、とりわけ施術時間の実測とデータ収集は、診療の合間の細切れ時間では進みません。院長が施術を止めれば、その分だけ売上が止まる。経営管理に使える可処分時間は週に数時間が上限、という現実の中で、まとまった20時間を捻出するのは、意志の問題ではなく時間割の問題です。「改善のための時間が、改善したい当の本人にない」という詰まりが、ここでも効きます。

もう一つは専門性です。変動費に何を含めるか、歩合をどう切り分けるか、セットをどう按分するか——これらは管理会計の技術であって、医学教育にも臨床経験にも含まれません。そして重要なのは、顧問税理士の税務申告業務でも、この数字は出てこないということです。税理士が扱うのは過去の確定した数字を税務のルールで整理したものであり、「メニュー別に変動費を割り付けて未来の値付け判断に使う」管理会計は、その職掌の外にあります。試算表を毎月受け取っていても、この表は手元に来ません。

つまり、やり方が分かることと、それが院内で回り続けることの間には、時間と専門性という構造的な距離があります。これは院長の力量の問題ではなく、単院という体制そのものが抱える構造です。

社外CFOが入るとこう回る

この構造的な距離を埋めるのが、社外CFOの役割です。役割分担はきわめてはっきりしています。

  • 表の設計:どのメニューを行にし、変動費に何を含め、時間をどう測るか——定義とルールを最初に固めるのは社外CFOです。ここがぶれると比較が成り立たないため、定義書として残します。
  • 初回作成:20〜30時間かかるデータ収集と実測の段取り、仕入単価の名寄せ、歩合規程の反映、最初の一枚の完成まで、社外CFOが実務を巻き取ります。院長の診療時間を止めません。
  • 四半期更新:単価と件数を洗い替え、順位の変化と、その背後で何が起きたかを一枚にまとめます。

そして院長がやることは、ただ一つ、「表を読んで決める」ことです。脱毛を値上げするのか、看護師に委譲して院長の時間を空けるのか、空いた時間を埋没法の集患に回すのか——決めるのは、いつでも院長です。社外CFOは決めません。決められる状態、つまり選択肢と試算と根拠がそろった状態をつくるところまでを担い、意思決定そのものには踏み込みません。数字をつくる人と、数字を読んで決める人を分ける。この分業が、表を「一度つくって終わり」ではなく「四半期ごとに回る計器」に変えます。

最初の一歩

いきなり全メニューを完璧に測ろうとすると、20〜30時間の壁の前で足が止まります。今週やるなら、簡易版を1時間でつくるのがおすすめです。

  1. レジデータから、直近3か月の売上上位10メニューだけを書き出します。
  2. 各メニューの価格から、ざっくりの変動費(薬剤・材料・歩合・決済手数料)を差し引き、貢献利益を出します。単価は概算でかまいません。
  3. 各メニューの医師拘束時間を、実測ではなく「体感の分数」で仮置きします。
  4. 貢献利益を分数で割り、時間当たり貢献利益を出して、大きい順に並べ替えます。

これだけで、「売上順」と「時間当たり順」がどれだけ入れ替わるかが見えます。精度は粗くて構いません。この1時間の簡易版で順位の逆転が一つでも見つかれば、それがこの施策に本気で取り組む価値の、何よりの証拠になります。

そして、簡易版で見えた「順位の逆転」を、値上げ・委譲・枠配分という実際の意思決定にまで持っていくには、精度を上げた本番の表と、それを四半期ごとに回し続ける体制が要ります。その20〜30時間を誰が引き受け、院長を「読んで決める」役割に専念させるか——ここまで来ると、一枚の表の話は、体制の話に変わっていきます。

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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業。
M&Aにより取得した赤字企業の再建・価値向上プロジェクトに複数社参画し、経営改善の実務と事業再生のプロセスに携わる。その後、スタートアップにて経営企画・資金調達・新規事業の立ち上げなど、経営の中枢領域を担当。現在は、自らIT企業を経営する傍ら、企業の再成長や経営課題の解決を支援している。
スタートアップ立ち上げから従業員1,000人規模の企業の再生まで、幅広い事業フェーズでの経験を通じて得た普遍的な経営手法をもとに、各企業の現実に即しつつ、理論に基づいた実践的かつ再現性の高い経営コンサルティングを提供している。

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